第65回免疫学セミナー
◆第65回免疫学セミナー◆
【演題】 腸内環境の制御による新たな疾患予防・治療基盤技術の創出
【講師】 福田 真嗣 博士
【所属】 慶應義塾大学先端生命科学研究所
【日時】 平成28年1月18日(月)午後17:00-18:30
【場所】健康医科学イノベーション棟8階講堂
【講演要旨】 ヒトの腸内には数百種類以上で100兆個にもおよぶ腸内細菌が生息しており、腸管上皮細胞群や粘膜免疫細胞群と複雑に相互作用することで、複雑な腸内生態系、すなわち「腸内エコシステム」を形成している。腸内エコシステムはヒトの健康維持・増進に重要であることが知られているが、そのバランスが崩れると大腸癌や炎症性腸疾患といった腸そのものの疾患に加えて、自己免疫疾患や代謝疾患といった全身性疾患につながることも知られている1,2。それ故、腸内エコシステムの恒常性維持機構を理解することはわれわれの健康維持にとって必須とも言えるが、個々の腸内細菌がどのように作用することで腸内エコシステムの恒常性維持に寄与しているのか、すなわち宿主-腸内細菌叢間相互作用の分子機構の詳細は不明な点が多い。われわれはこれまでに、腸内細菌叢の遺伝子地図と代謝動態に着目したメタボロゲノミクスを基盤とする統合オミクス解析技術を構築し、腸内細菌叢から産生される短鎖脂肪酸のひとつである酢酸や酪酸が、それぞれ腸管上皮細胞のバリア機能を高めて腸管感染症を予防することや、免疫応答を抑制する制御性T細胞の分化を促すことで、大腸炎を抑制することを明らかにした3,4。一方、疾患発症には腸内細菌叢のバランスの乱れ(これをdysbiosisと呼ぶ)による腸管内での異常代謝発酵が疾患関連代謝物質の産生を促していると考えられており、事実dysbiosis時に産生される腸内細菌叢由来尿毒素が慢性腎臓病の悪化にかかわり、便秘薬摂取による腸内環境改善が慢性腎臓病の悪化抑制に効果があることも明らかにした5。以上のことから、腸内細菌叢から産生される代謝物質が生体恒常性維持に重要な役割を担うことが明らかとなった。本研究成果は腸内エコシステムの理解に繋がるだけでなく、将来的には腸内細菌叢由来代謝物質を標的とした創薬や、科学的根拠に基づく食習慣の改善、適切なサプリメントの開発など、腸内エコシステムの人為的修飾による新たな健康維持や疾患予防・治療基盤技術の創出に繋がると考えられる。
セミナーは日本語で行われます。
This seminar will be held in Japanese
詳細はこちらをご覧下さい。 seminar65.pdf
問合せ先: 医学医療系・免疫学
渋谷 彰(ashibuya@md.tsukuba.ac.jp)
029-853-3281
たくさんのご来場お待ちしております。